勝手に私の好きなポケミスBEST3

ポケミス60周年記念号のハヤカワ・ミステリマガジンがとてもおもしろかったです。

触発されてぼくのベスト3をと考えてみたのですが、さすが「世界最高最大のミステリ・シリーズ」です。まったくしぼりきれません。

しかたないので「ポケミスでしか読めないこと」「個人的に思い入れがあること」を軸に候補作を厳選してみましたがとても3つにはおさまりません。

このブログの最後にベスト3を載せられるかどうかまだわかりませんが脳内ミステリ蠱毒をしながら駄文を書き連ねます。

そもそも「ポケミス」って何よという話なのですが、ミステリ&SFの老舗である早川書房が昔から出してる「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」というレーベルの通称でして特殊な判型ともあいまって知らないひとはまったく知らない、にもかかわらず1700点超という膨大な作品群を形成している隠花植物のような存在です。


「あまり人目につかない/あまりにも膨大」という条件のため、自覚的な「ミステリ読み」になる積極性と覚悟の最初の試金石とも申せましょう。


ぼくも大学に入るまで読んだことなかったです。まああんまりミステリ自体読んでなかったのですけど。
大学で所属していたワセダミステリクラブでの日常会話についていくために読みはじめたところも多分にあります。

ところが読みはじめるとこれが宝の山なのですね。個別の作品は当然として時代ごとの変遷も含めて。重くなったり軽くなったり。
ぼくはまじめなミステリ読みではなかったのでカーター・ブラウンや「ハニー・ウェスト」シリーズを古本屋さんの100円均一棚で漁ったりしてたまに『地下洞』とか『金庫と老婆』とか『殺し合い』とか『迷宮課事件簿』とかを見つけて読んでうひょーってなったりしてて今となっては嘘のようです(おもに気力的に無理です)。

そんなこんなで大層素晴らしいレーベルなのですが(ここまでずっと褒めています)、いったい何から読めばいいのやら途方に暮れる物量ではあります。

ぼくの初心者のかたへのおすすめの読みかたとしては、リニューアルしたここ数年の作品の打率が異常に高いので新しいものからまず手をつけていくのがよいかなあと思います。
あとどういうわけか経験上、女性作家はみなさん打率が高いので、「ポケミスならでは度」は薄れますが、気になる女性作家の代表作から手をつけてみるのもありかもです(なるべく安くて入手がたやすいもので)。マーガレット・ミラーとかP・D・ジェイムズとか。


さて。ながなが垂れ流してましたがそんなこんなでやっとベスト3がだいたいまとまりました。





1.ヘンリイ・セシル『あの手この手』
2.ハーバート・ブリーン『真実の問題』
3.ジェイムズ・ヤッフェ『ママはなんでも知っている』



嘘です。

まとまりませんでしたので次点をつけました。


次点
・サン・アントニオ『フランス式捜査法』
・ジャック・フィニイ『クイーン・メリー号襲撃』
・フランク・グルーバー『バッファロー・ボックス』
・リチャード・スターク「悪党パーカー」シリーズ


『クリュセの魚』(東浩紀/早川書房)

批評家として知られる東浩紀さんはぼくの中では「遅れてきたSF作家」です。
三島賞受賞の小説デビュー作『クォンタム・ファミリーズ』(河出書房新社)に続く今作で、その思いを新たにしました。あと10年ほど早く、それこそ90年代から小説を書いてくれていたらよかったのにとも、今のこの時点だからこその充実した結実というようにも感じられます。

(もちろんその間は批評家としてご活躍されていたのであくまで架空の選択としてなのですけど、もし最初から小説プロパーだったらという可能性について考えてしまいます)

これはちょうどこの小説内でくりかえし描かれる「選択と拒絶」そして「やりなおさない力」にも通じていますね。

ならばこれでよいのだと思います。

前作と同じく「SF」と「家族」と「愛」の抒情的な融合が魅力の本作ですが、前作ほどSF的なガジェット/ターム過剰ではなく、ストレートでセンチメンタルなボーイ・ミーツ・ガールものになっています(がもちろんちゃんとSFしてる)ので、今まで「SFだから」という理由で敬遠されていたかたには前作よりもおすすめかもしれません。

次回作が愉しみな作家さんです(というのもおかしなぐらいすでに充分なキャリアですが)。

アポカリプス・ノーウェア!

いわゆる「終末もの」はメアリー・シェリーの『最後の人間』あたりを嚆矢とするかと思うのですが、H・G・ウェルズ『タイムマシン』、ネビル・シュート『渚にて』、リイ・ブラケット『長い明日』、ウォルター・M・ミラー・ジュニア『黙示録3174年』、キース・ロバーツ『パヴァーヌ』、アーサー・C・クラーク『都市と星』……などなどおもしろい作品目白押しなのである程度広く知られているSFのサブジャンルといってよいかと思います(そういえばテリー・ビッスンが完成させたという『黙示録3174年』の続編て翻訳されないんですかね)。

さらに、昔はフレッド・セイバーヘーゲン『東の帝国』とかロバート・ハワード『失われた大陸』とか、ファンタジーかと思ったらポストアポカリプスってのもよくありました。

「終末もの」とひとくくりにしてますが「アポカリプスもの」と「ポストアポカリプスもの」に大別されて、それぞれ「終末」と「終末以後」が描かれます。

個人的には後者のが好みです。エリック・フランク・ラッセル『わたしは"無"』収録の「ディア・デビル」とかとてもいいですね。


ところが東西冷戦も終わって核戦争で人類絶滅のリアリティが失われてしまったのためか、最近ガチなのはあまり見かけません。

見かけてもだいたいウィルスですね。

あとゾンビとかゾンビ化するウィルスとか。

あとヴァンパイア化するウィルス(Justin Cronin "The Passage" とかね)とか。

そういえば Hugh Howey の "Wool" シリーズも一応滅びてるのか……ってこうしてつらつら書いてくとゾンビの本場アメリカの作品では今でもけっこうありますね。なんかよくわからないけど Ernest Cline の "Ready Player One" も滅びかけてた気がするし。

ここらへん "The Passage" とか "Wool" とかまとめてどこかから翻訳されないですかね(あとアポカリプスと関係ないけど Richard Phillips "Rho Agenda" 三部作もついでに。アニメファンにも受けそうだし)。
どれもそこそこ売れる気がします。

そんな中『ヱヴァンゲリヲン』は真っ向から「終末」を描いててすごいなあと思いました。

はるか昔、ユダヤ教の中でイエスが画期的だったのは「神の国」をいつか顕現する彼岸的なものではなく、今来たりつつあるものとして語ったことにあるというのを何かで読んだおぼろげな記憶があるのですが、これと同じようにいつか来る滅びではなく、今滅びつつある世界というのもとても現代的で魅力的だなあと思います。

ゾンビ以外で。

天地明察

 冲方丁初の時代小説は才能できらきらしてます。

このひとはなんでも書けるんだと思います。
とてもおもしろいのでぜひみんな読んでください。
それ以上つけくわえることもあまりなく。


冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,890
(2009-12-01)


『クォンタム・ファミリーズ』を読みました。

 ちなみに年越し読書となったのは『MORSE―モールス―』でございました。
もしかして空前のスウェーデンブームなのか。
これは英語版からの翻訳だけど。
原語から訳すのはやっぱりむずかしいのかしら。
『ミレニアム』みたいなふたりがかりでもいいから。
とてもよいモダンホラーでございました。
スウェーデン人の感覚って(おおっぴらなSEX関係を除くと)日本人とも近いのかも。『ミレニアム』のリスベットとか。本作のエリとか。最近の萌えブームの最前線みたいなキャラですよ、たぶん。ホラ―だけど。

で、その後は『クォンタム・ファミリーズ』を読んだりしてました。
とても端正でとても現代的で「密度の濃い山本弘」的読後感でした。
(道具立てはともかく)SFではなく今のリアルのようなものに肉薄しようとしているのが印象的です。ぼくが35歳だからかもしれないけど「仮定法の亡霊」っていい言葉だなぁ。SF的な設定はすべてこの「仮定法の亡霊」を浮き上がらせるために機能しているのでありました。
そういう意味でメッセージ性の強い小説だったと思います。
小説でなければいけないメッセージなので、とても好印象。

ヨン・アイヴィデ リンドクヴィスト
早川書房
¥ 819
(2009-12-30)

ヨン・アイヴィデ リンドクヴィスト
早川書房
¥ 819
(2009-12)


さもしい読書。


里見がまだ『ミレニアム』読み途中にもかかわらず『このミス2010』が発売されてしまったようです。

実は恥ずかしながらこういった年間ランキングものってまともに目を通したことがないので、例年通りたぶん順位もよくわからないまま過ぎ去るのですが、周囲から「アレおもしろいよね」と言われたときに知ったかぶるためにあらかじめ受賞しそうな作品を読破しておく、というさもしい心根の読書にいそしむのが常なのでてあります。
たぶん10月あたりからプログで紹介している新刊はある程度の順位に入っているのではないかと里見がにらんだものばかりです。もちろん更新頻度もだいぶ落ちてるのでTwitterで「読了なう」とつぶやいたっきりのものもけっこうありますが。

なのに……なのに本命の『ミレニアム』読破が間に合わず。
もうすぐ『2』を読み終わるので今週中には三部作読み切れると思うのですが。
残念無念。
しかし1700円×6冊で1万円オーバーというのはけっこう値が張りますなぁ。軽いタッチなのでなおさらそう感じます。おもしろいけど。

とか言いながら、
やっとふつうの読書生活に戻るのでありました。


スティーグ・ラーソン
早川書房
¥ 1,700
(2008-12-11)

スティーグ・ラーソン
早川書房
¥ 1,700
(2008-12-11)


『都市と星[新訳版]』読みました

なんか本と映画の備忘録っぽくなってきたなぁ。


それにしても今年のアーサー・C・クラークはどれもとてもよかったです。

どうも3つまでしかアフィリエイトを貼れない仕様のようなので最新の短篇集(+エッセイ)の『メデューサとの出会い』と『都市と星[新訳版]』だけ掲げておきます。

クラークは今さらぼくが書くまでもなくSF史上もっとも偉大な作家のひとりであります。SFを読まない方でもクラークの法則は耳にしたことがあるかもしれません。たぶん一番有名なのは「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」ってやつです。

昨年亡くなられたのを機に(?)短篇のベスト選集が3冊、そして代表作『都市と星』の新訳が成りました。書かれた頃からそれなりに時代も流れているのですが、サイエンスとロマンがうまく融合していてまったく古びておりません。

むしろ今だからすんなり読めるところも多く(特に『都市と星』の世界観なんか、今までまったく理解できてなかった気がします)、今このタイミングで読む機会を得られたことを幸運に思います。

これが売れればぼくの一番好きな『楽園の泉』も新訳版(とか決定版)で出たりするのかなぁ。わくわく。



『バッド・モンキーズ』読んだ。

 そろそろミステリやSFの年間ベストの本が書店をにぎわす時期になってまいりました。滑り込みで読んでおいて話題になったときすかさず「あ〜あれね」的リアクションを取れる最後のチャンスなので隙を見つけてはちまちまとベストに選ばれそうな本を読んでおります。後ろ向きです。

アンジーの『WANTED』とブラビ『ファイトクラブ』という最強夫婦の映画を足して若者向けにしたような作品です。つまりチャック・パラニュークのヤングアダルト版という印象であります。


マット ラフ
文藝春秋
¥ 1,200
(2009-10)


北村薫作品のこと。

おー。またしてもブログが更新されておりませなんだ。
更新するヒマもないのかといわれるとまったくそんなことはないのですが、なんとなくまとまった時間がないとネタがひねり出せないので放置したまま数日が経過してしまう、と。
困ったものです。

さて。
週末は大学時代のサークルの大先輩であらせられる北村薫さんの直木賞受賞を祝う会に参加しておりました。参加してるOBが里見から見てあまりにも雲上人すぎて居場所がありませんでした。
ほんとそうそうたる面子でありました。

北村さんはデビュー作『空飛ぶ馬』から直木賞を受賞した『鷺と雪』まで一貫してとても高いレベルの小説を執筆されてこられたので今回の受賞はむしろ遅きに失した感もありますが、これでまた多くの読者の目に留まるわけで、素直にとてもよかったなぁと思うのです。

ぼくが中学生(だったのかな? もしかしたら高校生だったかも)の頃、図書館で読んだ「私」シリーズの『夜の蝉』が北村作品との出会いだったのですが「なんてやさしい推理小説なんだ」と驚嘆しました。なにしろそのころ里見はミステリといえば島田荘司や新本格作家の派手な演出やトリック、強いキャラクター性などなどに彩られているものと思い込んでいたのです。それに対して北村薫さんは日常のできごとからささいに見える謎を拾いあげて、さらりと解いてみせる、しかも純然たる本格ミステリとしか呼びようのない構成力の妙、やわらかな文体で。こんなミステリがあったのかと。ほんと衝撃的だったのです。
そんなわけであわてて他の作品も読破して以来のファンです。当時は『秋の花』まで出てたのかな。つまりワセダミステリクラブに入る前からの読者だったわけで、のちに同じサークルに所属することができたのは個人的にとても光栄なことでありました。

これからもご健筆をふるって、傑作を世に送り出してくださいませ。

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
北村 薫

鷺と雪
鷺と雪
北村 薫

小伝馬町から今晩は。

新参者
新参者
東野圭吾

せっかくなので本の話題連投。日本人作家でもみんなに読んでもらいたい佳作と出会いましたので。
この『新参者』は東野圭吾の加賀恭一郎シリーズ(?)最新作です。簡単にご説明しときますと、この加賀恭一郎は東野作品の初期の頃から折に触れて登場する探偵役のキャラクターで、比較的冒険作(や野心作)に出てくる傾向があります。ですのでシリーズというよりは単独の作品の中の「読み続けてきた読者へのサービス」でしょうか。ですので他の作品を読んでいる必要はありません。
そして今回加賀は練馬署から日本橋署に「新参者」として転属になっていて、ちょうど小伝馬町で発生した殺人事件の担当としてあちこち聞き込みに回ることになります。そして行く先々でちょっとした小さな謎と出会い、加賀はひとつひとつ丁寧に解き明かしていきます。その一見殺人とまったく結びつかない小さな謎の積み重ねが、事件の核心へと導く構成の連作短篇です。
里見は東野圭吾のあまりいい読者ではなく、加賀恭一郎の登場する各作品もどちらかというと空回りを感じることの方が多かったのですが、今回は日本の情緒が色濃く残る浜町、人形町、そして小伝馬町を舞台にアクロバティックに走ることもなく、どちらかというと地味な事件をとりまくひとびとのゆるやかな円環を戸板康二や北村薫を彷彿とさせる円熟の技術で淡々とかつやさしく描いていてとても好感を覚えました。おすすめー。

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バーナムスタジオ

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