劉慈欣 "Death's End" を読みました。

"The Three-Body Problem" "The Dark Forest" に続く待望のLiu Cixin(劉慈欣/刘慈欣)「地球往事三部作」完結篇『死神永生』が "Death's End" としてついに出版されました。
翻訳はもちろん『紙の動物園』で日本でも人気の作家ケン・リュウが "The Three-Body Problem" に引き続いて担当してます。今回もグッジョブです。

第1作 "The Three-Body Problem" がアジア初のヒューゴー長編部門受賞ということで話題となった際に1作目、2作目と連続して読んだのですが、そのときの感想は以下に。

劉慈欣『三体』(Cixin Liu"The Three-Body Problem")を読みました

そして今回の "Death's End" はどうだったのかといいますと


マジでヤベェ

ふつう三部作って「風呂敷を広げて、風呂敷をたたむ」ものじゃないですか。
でもこれ、「風呂敷を広げて、広げっぱなしの風呂敷にあらゆるものをたたき込む」ですよ。
しかも!
前作 "The Dark Forest" の時点で

「ほんとに盛りだくさんです。」

と当時の里見はのたまってますが本作の盛りだくさんっぷりはそんなもんじゃありません。
ケン・リュウもこの3作目が一番好きとのこと。わかります。

ひとつも日本語に訳されていない三部作の3作目の感想をどうやって書けばよいのか悩み深いところですが、まああまり考えてもしかたないのでつらつらと書きます。
翻訳されてからまっさらの状態で読みたいかたには

「傑作だから大丈夫。安心してブラウザを閉じて」

とだけ申し上げておきます。







で、本筋の話です。
ここから先は自己責任で。


本作は人類のターニング・ポイントによっていくつかの時代に分かれています。

・Common Era
・Crisis Era
・Deterrence Era
・Post-Deterrence Era
・Broadcast Era
・Bunker Era
・Galaxy Era


です。
前作のラストからどうつながるのか(つなげられるのか)と読みはじめるといきなり "Common Era" (つまりふつうの人類の時代)、しかも15世紀、そしてスルタン率いるオスマン軍に包囲されたコンスタンチノープル、そして東ローマ帝国の最期! びっくりしました。

つながってないじゃん!

と思ったらさにあらず。
舞台は一転 "Crisis Era" に。前作の「ウォールフェイサープロジェクト」と同じころ、実は「ステアケースプロジェクト」というもありまして、こちらに勤務しているのが本作の主人公チェン・シン(Cheng Xin)という女性です。彼女は彼女を(一方的に)愛する男から星を贈られたことで大きく運命が変わります。人工冬眠をくりかえしてみずから歴史のターニング・ポイントになりつつ、はるか未来へと到達することになります。人生変わりすぎです。
そして前作の主人公も(かなりの老境ですが)健在で、随所に顔を出します。本作登場時は前作のラストを受けて、「ソードホルダー」と呼ばれています。毎度思うのですがこの作者(かケン・リュウ)のネーミングセンスはやたらカッコいいです。

そしてさらに!
シリーズを貫く最重要ガジェットである智子(sophon)がまさかの絶世の美女、しかも日本女性の智子さんになって登場します。だいたいキモノ姿でお茶をたてています。たまにニンジャスカーフで戦闘態勢になります。あれ? 前作までスーパーコンピュータでしたよね? しかも粒子サイズの。

そんなわけで前作のラストが "Crisis Era" の終わりであり "Deterrence Era" のはじまりにあたりまして、時間軸的にそこまでは「裏ではこんなことがありました」的にふむふむと読んでいたのですが、上記の時代区分のまだふたつめが終わったとこなことからも薄々察せられる通り、信じられない未来が待っています。
古典SFでたとえるとエリック・フランク・ラッセルの『宇宙のウィリーズ』を読んでたらいつの間にかバリントン・J・ベイリーの『時間衝突』になっていたかのような衝撃です(例示した作品はどちらもおもしろいのでおすすめですよ)。

それにしてもまさかの擬人化……。

前2作で主題となっていた「文化大革命」も「宇宙人の侵略」もジャンルでいえばもはや「日常もの」です。

あまりに壮大になりすぎるとついていけなくなると思うかもしれませんが、そこがこの作者のうまいところです。
そこだけでも独立した短篇として読める秀逸なエピソードが入るのは本作も同様で、ちょうど真ん中あたりで人類に何かを伝えようとする謎めいた「童話」が挿入されています。
この「童話」に導かれて人類は次のステップに突入します。

ソードホルダーが正体も知らず抑止に利用していた「ダークフォレストストライク」の真の姿も明らかになっていきます。
それは「風呂敷広げすぎだろ」という読み手のイマジネーションの限界に挑戦するかのような異常なビジョンなのですが、ここでもゴッホの「星月夜」が効果的に投入されていて、ほんとにこの作者うまいなあと。


単語レベルですと「光速」や「次元」といった「普遍の物理法則」や、「歌者(Singer)」や「二重のメタファー」そして何より「主人公の(あまり納得のいかない)判断力」をはじめ書きたいことはたくさんあるのですが、本作の英訳が出たのもつい先週ですので、あまり具体的に踏み込まないように読後の印象としてまとめますと、

「最先端に躍り出たワイドスクリーン・バロック」

です。
600ページと少し長めのSFですが、展開がスピーディーで何が起こるかわからないのでつい一気に読んでしまいました。


いつか日本語に翻訳されて多くのかたに読まれる日がくることを願いつつ。

ごちそうさまでした。


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