劉慈欣『超新星紀元』("Supernova Era")を読みました。

Cixin Liu
Tor Books
¥ 2,981
(2019-10-22)

今回デビュー長篇『超新星紀元』が "Supernova Era" として英訳出版されたことで、おそらく劉慈欣さんの長篇英訳がほぼ出揃ったと思うので、この機会になんとなく思ったことを書いておきます(ぼくは中国SFにくわしいわけでもないので推測まじりの備忘録程度です。まちがいがありましたらご指摘ください)。
すぐ忘れるからね。

今回訳出された『超新星紀元』は、

超新星爆発の影響で「13歳以上の人類は1年以内に死ぬことが確定している」という極限状況下で、死にゆく親はこどもたちに何を伝え何ができるのか、こどもたちはおとなたちから引き継いだ世界で何をなし、おとなのいない時代にどのような世界をめざすのか……

というちょっと着想の時点でこれはもう勝利確定みたいな話なのですが、それは最初の3割ぐらいで終わって、例によってちょっとジャンプする方向がズレて南極大陸に到達するびっくり展開になります。ちなみに今回「びっくり展開」パートが全体の5割ぐらいでしたでしょうか(これが次作『球状閃電』では3割ぐらいに減ります)。あとがきを読んだらそのびっくり南極大陸パートこそが本作の着想の原点だったことが判明しましたので、おそらく劉さんの「これがやりたい」という意志によって物語が強引にシフトチェンジする感覚が「びっくり展開」なのだと思いました。「びっくり展開」と書いてますけどぼくのなかでは『三体』の「古箏作戦」みたいなのも含むので、あくまで里見の思う劉慈欣SFの特徴ということで必ずしもネガティブなだけではありません。そしてあとの作品になるほど驚きは変わらず無理筋感は減っていきます。今回については(よくいえば)小松左京を読んでたはずなのにいつのまにかかんべむさしか筒井康隆になってたような印象です。別々の作品だったらよかったのですけど。
本作のあとがきの記述によると発表こそ2003年ですが1989-1991年あたりですでに書き上げていたようです(ご本人の認識としては「30年前の作品」となっています)。そのためちょっと科学技術面や国際情勢まわりが古く感じるところもありますが、今までで一番小松左京ライクな作品になっています。上記のあらすじだけでも『復活の日』や『日本沈没』を、そして何より「お召し」をイメージしますよね。
あと米中関係がメインのため本筋にはほとんどからまないですが日本人のあつかいがひどくて大変よかったです。

さてこれで長篇がそろったと書きましたが発表された時系列でならべると以下になります。

2003年 『超新星紀元』("Supernova Era")
2004年 『球状閃電』("Ball Lightning")
2007年 『三体』("The Three-Body Problem")
2008年 『黒暗森林』("The Dark Forest")
2010年 『死神永生』("Death's End")

ほかに Wikipedia で未訳長篇とされてる『中国2185』『魔鬼積木』というのがあるのですけど、前者は(『超新星紀元』の原型を執筆したのとほぼ同時期の)1989年作品で当時は未発表。後者はジュブナイルなので長篇ではなくたぶん長めの短篇か中篇ぐらいの長さなのではないかと思います(中国で本作と合本になっている『白亜紀往事』は "Of Ants and Dinosaurs" というタイトルで訳出されてますがそれぐらいの長さで、短篇集 "The Wandering Earth" に収録されています)。
で、残念なことに『死神永生』以降、劉慈欣さんの長篇作品はないので、長篇デビュー作品である『超新星紀元』を読んで、ぼくとしてはようやく追いついた感じです(まだまだ未訳短篇が残ってるのでしばらくは楽しめますが)。

で、長篇を発表順にならべてみると(おこがましい書き方ですが)成長著しいというかずっと成長し続けているという印象です。長篇作品が少ないとはいえ、常に次作が前作を上回る傑作になっています。翻訳の順序が

『三体』→『黒暗森林』→『死神永生』→『球状閃電』→『超新星紀元』

だったため、『超新星紀元』『球状閃電』に「三体」三部作の「萌芽」を見出しやすくなったので、それはそれでよかったのかなとも感じますが、(結果としてここ2作品が『死神永生』の先として期待してたレベルではなかったのもあり)『死神永生』で最長不倒距離の大ジャンプを見せてくれたまま新作が途絶えてしまったことで、はたしてぼくたちは劉慈欣さんのピークを見届けたのか、はたまたいつかもっと遠くへ連れて行ってくれるのかと新作を待ちわびてしまいます。

大長篇が出ないかなあ。


関連記事
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追記
『球状閃電』と『三体X・観想之宙』(著者:宝樹)の感想を書いてなかったことに気づきました。
『球状閃電』は球電現象の正体をつきとめる中盤ぐらいまでとても快調でした(『超新星紀元』の快調さはおとなたちがフェイドアウトする1/3ぐらいまでだとして)。後半はあまり乗り切れなかったですが『三体』と重なり合う部分もあるしエピローグはいい雰囲気なので読んで損はないです。
『三体X・観想之宙』は宝樹さんという「三体」シリーズの大ファンが書いた「外伝」(というかファンフィクションです)。こちらは読んだときの感想が残ってたのでいまさらですけどせっかくなのでアップロードしときます。

宝樹『三体X・観想之宙』 "The Redemption of Time" を読みました

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