宝樹『三体X・観想之宙』 "The Redemption of Time" を読みました

日本で『三体』ブームが吹き荒れる中、アメリカでは『三体X・観想之宙』(宝樹)が "The Redemption of Time" として英訳されたので読みました。
翻訳は今回もまかせて安心ケン・リュウです。

これはいわゆる「ファン・フィクション」です。
熱烈な劉慈欣ファンによる二次創作が公式に(?)認められて『三体』と同じ出版社から発行されてしまったというものです。

「三体」シリーズ3作目にして最終巻『死神永生』を読んだ2日後に第1部を書き上げ、3週間後には全編ネットにアップロードしていたというのですからとてつもない情熱です(英訳版にあたって作者の宝樹さんが、序文を寄せているのですが、中国で『三体』がどれほどの熱気に包まれていたか伝わってくるとてもよいものでした。宝樹さんは発売当時ベルギーにいて購入できず、あまりの読みたさに友人に全ページ写真に撮ってメールで送ってもらったそうです)。

さて肝心の内容なのですが、ぼくがあまり事前情報をいれてなかったので驚いたのですが、意外なことに長編ではなく3作の中・短編プラスアルファという構成でした。
共通点はどれも『死神永生』にまつわるエピソードなのですね。
以前ぼくが「最先端に躍り出たワイドスクリーン・バロック」と評したように『死神永生』は驚天動地の物量大作戦な内容で、当たり前なのですが結果として書かれなかった謎や設定が大量に存在しています。
それを補完するのが本作『三体X』の第1部、第2部(小説の形式ではありますが、どちらもほぼ対話だけで構成されてます)と、「実際のところ全宇宙を巻き込むレベルの戦いってどんなのよ」をほんとに書いた第3部、そしておまけに「『死神永生』のあとってこんな感じなのかな」の「コーダ」と、さらにおまけでその先を断片的に描いた「ポスト・コーダ」にわかれていていちおうつながってるのですけど、長編という感じではないです。

読みながら「なるほどー。こういう設定だったのね」「あ、実はそんな理由だったんだ」と読みながら、あまりに緻密に練られた『死神永生』の構造に目からウロコが落ちまくるのですが、最初に述べた通りこれは「ファン・フィクション」なので、信じられない説得力にもかかわらず



すべて後付けです!



マジかよ。納得しちゃったじゃん。
ぼくが『死神永生』を読んだのは発売直後だったので

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「光速」や「次元」といった「普遍の物理法則」や、「歌者(Singer)」や「二重のメタファー」そして何より「主人公の(あまり納得のいかない)判断力」をはじめ書きたいことはたくさんあるのですが
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と、当時あまり踏み込めずに羅列にとどめていた疑問点にはすべて解答が書いてありました。
それどころかなぜ「智子」があのようなことになったのかまでしっかりと説明されています(しかもこれがまさにバックグラウンドまで「オレたち万歳」なものなので日本人は必見なんじゃないですかね。劉慈欣さんはこれOKしちゃダメだろとは思いますが)。
これがすべて後付けだなんて。

『死神永生』のアンサーみたいな小説なので単独では成立し得ないのですけれど、ここまで高度に組み立てられてしまうと感動すら覚えます。かといってまじめすぎず、ファンならではの遊び心もふんだんに入ってます(それがどれもあきらかに劉慈欣さんよりも若い世代なのが伝わってくるもので、作中に出てくる日本のイメージもだいぶ異なって、ああ作者若いんだなと思いました)。

まあ、とはいえファンゆえにあのラストが書きたかったのもわかるけど「ポスト・コーダ」は蛇足だったかな。

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